こんにちは。
心理カウンセラーの幸跡です。
今回のテーマは「フォーカシング」。心理学やメンタルケアなどに興味がある方は聞いたことがあるかもしれません。フォーカシング指向心理療法というひとつの心理療法であると同時に、誰にでもできるメンタルセルフケアの技法としても有名です。
フォーカシングとは何なのか、どんな状況のときに効果を発揮し役に立つのか、具体的なやり方やそのために必要な用語解説など。この記事を読み終えて「自分もやってみたい」と思ってもらえるように、少し長くなりますがしっかり紹介をしていきたいと思います。
それではひとつずつ見ていきましょう。
フォーカシングは自分でできる心理療法
フォーカシングとは何か。ひとことで言えばそれは「自己との対話」です。そして「ひとりでもできる心理療法」ともいえると思います。催眠療法やリラクゼーション技法、またマインドフルネス的な要素もあり慣れるまで練習は必要ですが、その効果は心理学・心理カウンセリング・メンタルケアなどの分野で多く実証されています。
人生で直面する悩みや挫折、同時に感じるネガティブな感情。多くの人はそれらを解決しようとたり無理やり肯定しようとしたり抑圧しようとしたりします。
ですがそのとき本当に必要なのは、解決を急いだり意識的に肯定したり抑圧することでもなく、ただ「今自分がこういう状態でいる」「こんな風に感じている」ということをしっかり理解して受け入れてあげることです。
どんな風に感じているのか、この後どうすればいいのか。それはもう自分自身がすでにわかっています。ただそれを理解してしっかり受け入れることができれば、その後人間の精神は必ずプラスの方向に動き出します。
しかしその前に解決された未来を見ようとしたり悩みに直面した事実を嘆いたりすることで、潜在的にわかっている建設的で適切な思考や行動が見えなくなってしまいます。意識的に感じている不安や焦り、また防衛本能や被害者意識的などによって。
そんなときに、理解し受け入れてもらいたがっている感情と向き合える方法、そして本当の自分はどう感じどうしたいと思っているのかを知ることができる方法、自分の身体を通してそれらを行っていくのがフォーカシングです。
日常では難しい自己との対話
解決してあげようとせず、正しいアドバイスをしたり導いてあげようともせず、ただ一緒にいて心から受容し共感してあげる。誰かの相談を聴くときなどもこの姿勢はとても重要。それはその根底に「この人は自分で答えを見つけられる」「本当の答えはこの人しか知らない」という相手に対する信頼や尊敬があるからです。
フォーカシングとはそれを自分自身にしてあげること。一生懸命あなたに理解してもらいたいと訴えている心の中の声に耳を傾けて、日常では意識することがない自己と向き合い対話をすることです。
その過程ではフェルトシフトと呼ばれる「あ、そういうことか!」という解放感を伴った気づきが生まれます。それには心理療法的な効果があり、物事の解釈や捉え方などの認知の部分の変化、そこから生まれる感情の変化、そして感情に沿った行動の変化まで、現状に適応しもっと生きやすくなっていきます。
フォーカシングはどんなときに有効?
フォーカシングは本当に多くの場面で役立ちます。では、具体的な方法に入る前にフォーカシングが実際どんなときに役に立ち有効であるかを見ていきます。
・何かを決断したいときや選択に迷うとき
・理由がわからないモヤモヤがあり気分が晴れないとき
・批判や否定をされマイナス思考になっているとき
・借り物の考えのようで自分の本心ではないと感じるとき
・劣等感を感じたり自分の価値を疑ってしまうとき
・自分の人生をどう進むべきかわからなくなったとき
・創作活動に行き詰まったとき
・やらなければならない課題が手につかないとき
・自分がネガティブ思考になる傾向を知りたいとき
・自分の悪いクセや偏った考え方などを直したいとき
・他人からではなく自分で自分を評価したいとき
・エレベーターや満員電車などで周りが気になってしまうとき
・悪夢の回想やある出来事のフラッシュバックなど頻繁に侵入症状があるとき
・病院での診断では異常がない身体の痛みや不快感が気になるとき
・理想の自分と現実の自分のギャップに苦痛を感じるとき
など
このとき、自分の身体はその答えやどうすれば楽になるかを既に知っています。それを身体に教えてもらうというイメージであり、その過程そのものがフォーカシングなのです。
知っておきたい用語とその意味
まずフォーカシングを実施する前に知っておきたい用語とその意味についていくつか記載します。
①フェルトセンス
「感じられた感覚」という意味で、身体に意識を向けたときに感じるうまく言葉にできない感覚のことです。少し抽象的でわかりにくいのでいくつか例を挙げます。
【例】
・何だか胸のあたりがソワソワする
・喉のあたりが締め付けられているような感じがする
・お腹のあたりに重い石が乗っているような感覚がある
このように感じられたら、それがフェルトセンスです。フォーカシングはこのフェルトセンスをじっくりと感じて、言葉にできてまるで目で見える程に具体化していくことが何より大切です。
②フェルトシフト
フェルトセンスに注意を向けて、それを具体化させていく過程で起こる現象です。そのフェルトセンスの名前や形、感情や訴えている内容などその正体がだんだんと見えるようになってきたときに、深い解放感や納得感とともに感覚が変化していきます。
深く充実したフォーカシングが成功したときには、このフェルトシフトによって強い快感や陶酔感、自分の人生への期待感などが体験できます。
③体験過程
フェルトセンスに注目し、その感覚がフェルトシフトへと向かうまでの過程のこと。「今この瞬間に感じている感覚の流れ」とも言えます。
目まぐるしい日常ではこの体験過程を意識することは困難で、そのため今自分がどう考えその考えがどう変化しているのかというところに気づけず自分自身がわからなくなってしまいます。フォーカシングでは、その変化をしっかり体感するために終始この体験過程に意識を全集中させます。
事前準備
【場所】
集中できる静かな部屋で行う
【時間】
慣れてくると10分くらいでもできるが、最初は短くても30分くらいは必要
【服装・体勢】
・ベルトや時計など身体を締め付けるものは外してリラックスできる服装で行う
・靴は抜いでスリッパなど楽なものに履き替える
・イスに座るか横になって行う ※眠くなってしまう場合は座って行う
・目は閉じるかあまり物が視界に入らないようにする
フォーカシングの手順
①心を落ち着かせる
2~3回深呼吸を行い、「気持ちが落ち着いている」と心の中で繰り返します。
実際にフォーカシングを行う前の準備運動のようなイメージです。
②身体の内側に意識を向けていく
つま先から膝の感覚、太ももやお尻・背中などのイスに接している部分の感覚、手の指や腕、肩、後頭部やおでこなど身体の感覚ひとつひとつに注意を向け確かめていきます。
このとき意識が外側へ流れていかないように注意が必要です。もし別のことを考えてしまったり、「あ、注意がそれているな」と感じたらその都度また体の内側へ注意を戻していきましょう。
③身体の中心部分に意識を向けていく
身体の内側に意識を向けられたら、喉・胸・みぞおち・お腹・下腹部など身体の中心部分をなぞるように更に意識を向けていきます。そして身体の中心部分をスキャンするような感覚を保ちながら、そこに「何が私の注意を欲しがっているんだろう」と問いかけてみます。
このとき、「喉の奥をギュッとされている感じ」「胸が押し潰されそうな感じ」「下腹部あたりに黒くてモヤモヤしたものがある」など何かしらの感覚が出てきたらそれがフェルトセンスです。それがあなたに送られているメッセージなので、まずはそれをしっかり聴き取れるように注意を向け続けましょう。ここはしっかり時間をかけるべきところです。
④フェルトセンスにあいさつをする
ある程度時間をとってフェルトセンスに注目し続けた後、今度はそれにあいさつをしてみます。「こんにちは、そこにいるのを知っているよ」という風に、その存在を認め受け入れるように心の中でやさしく声をかけてみます。
このあとフェルトセンスを理解していく上でとても重要な部分なので、絶対に忘れないようにしたい過程です。
⑤フェルトセンスを具体化させていく
あいさつをした後は、引き続き注意を向けながらそのフェルトセンスを描写するようにもっと具体化させていきます。
どんな感覚なのか、どんな形や色をしているのかどんな感情を持っているのか、どんなメッセージを発していてどんなことを聴いてほしがっているのかなど。
⑥身体に戻して確かめる
何か感じ取れた特徴や感情があったら、それを一度身体に戻して合っているかどうか確かめてみます。例えば「みぞおちのあたりがキリキリして、不安や焦りを感じている」というフェルトセンスであれば、それを一度みぞおちあたりに戻してみて「これであってる?間違っていない?」と聞いてみます。
間違っていないと回答があればいいのですが、もししっくりこないようであればまだフェルトセンスの声を聴き漏らしてしまっているかもしれません。もう少し的確な描写ができないかもう少し見つめてみましょう。
⑦描写したフェルトセンスとただ一緒にいる
あいさつをしてしっかり具体化ができたら、そこからしばらくはそのフェルトセンスに興味を持ちながらただ一緒にいてみます。このとき注意をしたいのは、そのフェルトセンスの中にどっぷり浸かってしまうのではなく隣に座って眺めているという感覚です。
フォーカシングの創始者であり心理学者のジェンドリンは「スープの香りを嗅ぎたいのなら鍋の中に顔を突っ込んではならない」という言葉を残しています。これは脱同一化という心理作用で、同じようにそのフェルトセンスを知りたいのであればその中に入り込んでしまわずに外から眺めている感覚が重要です。
これにより恐怖や不安などのネガティブな感情に飲み込まれず、そういった感情が”自分の中の一部にある”と傍観することができます。
⑧フェルトセンス側の観点で感じてみる
これまでは自分からフェルトセンスを見てきましたが、今度はフェルトセンス側の観点から感じてみます。誰かの相談事を聴くときなどに、自分の目で見るのではなく相手の目で見て感じてみる、これを共感といいます。同じようにフェルトセンスに共感しどんな風に感じているのかを確かめてみます。
そのためにこんな質問をしてみてもいいかもしれません。
「どんな感情があるの?」
「何がそんな不安にさせているの?」
「私に何を伝えたいの?どうしてほしいの?」
このとき深く体験過程に触れられていると、色々なメッセージが出てくると思います。「とても不安で怖い」「周りの人を敵視しないで仲間だと思いたい」「何でも完璧にやろうとすることに疲れた」「もっと自分を認めてあげてほしい」「ゆっくりと自分と向き合う時間を持ってほしい」などなど。
そのとき、それらを解決してあげようとしたり何かしらの助言を与えてあげようとする必要はありません。ただそれを理解して「不安で怖いんだね」「ずっと周りの人を敵のように感じてきたんだね」と返答してあげてください。フェルトセンスの望んでいることは受容や共感であり、解決や助言や指導などではありません。
しっかりフェルトセンスの声を聴いて共感し受け入れられると、そのときに「なるほど!そういうことだったのか」という深い解放感や納得感とともに気づきを得られます。それがフェルトシフトの状態であり、フォーカシングではこの状態を目指します。
フェルトシフトの効果は言い換えれば自己治癒の効果です。前後ではその問題に対する捉え方や感情が大きく変化しとてもスッキリできていると思います。
⑨終わりにしてもいいかを確認する
フェルトセンスの声を聴き切り、しっかりフェルトシフトの感覚を感じられたら「そろそろ終わりにしてもいいかな?」と問いかけてみます。
ここもフォーカシングの過程では重要な部分で、まだ聴き漏らしているメッセージがあればもしかしたら今度は下腹部や背中などに違和感を感じるかもしれません。そのときは、もう一度「こんにちは」とあいさつをするところから始めてみましょう。
もし終わって問題なさそうであれば、色々教えてくれたことに感謝をしてまた戻ってくることを伝えます。そしてそのまましばらくの間はフェルトシフトの余韻を感じながら、そっと目を開けてフォーカシングを終わりにします。
最後に
フォーカシングとは自己との対話であり、ひとりでできる心理療法であり、現状に適応するための人格改善の手法でもあります。感覚をつかむまで繰り返しの練習が必要になり最初は期待したような手応えを感じられないかもしれません。
ただこれはひとつの練習事のようなもので、手順を守り体験過程に注意を向け続けること、それがどんなものでも感じたフェルトセンスを疑わずにしっかり理解しようとすること、そして何度も何度も継続することで必ず深い自己との対話ができるようになります。
人間の心理過程というのは、何かを知覚しそれをどう認知するか、それによって感情が生まれ実際の行動へと移っていきます。フォーカシングによって物の見方、捉え方、判断や解釈の仕方が変われば必ずその後の感情や行動も変わってきます。
ぜひ日常にこのフォーカシングを取り入れ、自分をしっかり受け入れることで自分自身の調和・安定を心がけていきたいですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。