こんにちは。
心理カウンセラーの幸跡です。
ストレス社会と言われる現在。誰もが日常的に不安を感じては乗り越えるという繰り返しの毎日を過ごしています。未完全で精神的にもまだ未熟な人類にとって、不安がない人生はあり得ません。
でもその不安を乗り越える力を持っているのも人間です。
不安が起こるメカニズム、不安に対しての捉え方や受け入れ方、不安と精神の関係や不安を感じたときの対処法など。
少しでも抵抗を少なく、そしてしっかり不安から成長のエネルギーをもらえるように、今回は「不安」という感情について向き合い考えていきたいと思います。
目次
不安が起こるメカニズムと捉え方
そもそもどうして不安という感情が生まれるのか、不安を感じるとき身体の変化が精神にどんな影響を及ぼしているのか。ここの重要性から見ていきたいと思います。
身体と精神の状態
最初に、人間が感じるストレスには多くの種類があります。
こうした身体や精神の安定に影響を与える原因となるものをストレッサーと言いいますが、今回の不安もそのひとつ。ストレッサーを感じると、脳の各所でそれに対する判断や対処が行われます。そして神経の興奮が起こり不安や緊張など精神状態に影響を与えていきます。
このあたりの詳細はまた後ほど書きたいと思いますが、こうした生理的な状態、今自分の中で何が起こっているのかを理解することで少し心のモヤモヤが和らぎます。原因がわからず苦しんでいるとき、病院に行って「あなたは〇〇という病気です」と診断されると、ショックというよりもどこか安心しますよね。その状況と似ているかもしれません。
漠然と感じる未来への不安も思い込みから発展する対人関係の不安も、まずは自分の身体が今どういう状態なのか、それがなぜ精神に影響を与えるのかという客観的な状況を知ること。それが次のステップに進むための準備になります。捉え方を変えてポジティブな動きをつくりだすきっかけになるということです。
解決ではなく受容
そしてそれよりも更に大事なのが「不安」に対する捉え方と受け入れ方。身体や精神の状態がわかると安心はできるかもしれませんが、それだけでは現状を変え建設的に未来に向かうためには不十分。
場合によっては、「だから私は努力しなくてもいい」「だから周りは私に優しくするべき」といった誤った信念をつくってしまうかもしれません。
またここで注目したいのは、“不安の解決方法”や”不安をなくす方法”ではないということ。あくまで「不安」という感情をどう捉えて、今自分が不安な状態でいることをどう受け入れればよいかということです。
その人が本当に不安を乗り越え自分の力とするとき、その方法はその人以外の他人にわかるものではなく、他人からの指示や助言によって成し遂げられるものでもありません。
自分の力で不安を解決し続けるためには、解決を急いだり感情を抑え込んだり無理に肯定しようとするのではなく、まずは今の不安という状態を十分に理解して受け入れることが何より大切です。
不安は自分自身になるための過程
自分の理想や「こうあってほしい」「こうあるべき」という自己概念と、それに対して実際に体験していることのギャップ。これに比例して不安の程度も大きくなっていきます。
たとえば「ドラマチックでストーリー性のある人生が良い人生」という自己概念を持っている人が、仕事にやりがいを持てず同じ繰り返しと感じてしまう毎日を過ごしていたとします。
そのときに未来への不安が生まれます。自分はこのままでいいのか、人生はこんなに味気がないものなのかというネガティブな感情とともに、気持ちが塞ぎがちになり行動にも積極性がなくなっていきます。
または「自分は人から好かれなければならない」「孤立してはならない」という自己概念を持っている人が、ふとすれ違った人から目をそらされたり仲の良いグループで自分以外のメンバーが楽しそうな話をしているところを目撃したりすると、そこでやはり対人関係に対する不安が生まれます。
そして嫌われているのではないか、何か気に触ることをしたのではないかとネガティブな思い込みに発展しそれが行動に現れていきます。
自分がどんな理想を持っていてどんな自己概念があるのか。それを日常生活の中で気づくことは難しく自分と向き合うための訓練が必要になりますが、不安はそうした自分の理想や自己概念と実際の体験のギャップから生まれるものです。
不安というサイン
ネガティブに聞こえるかもしれません。でもそれは言い換えるとそのギャップを埋めるためのきっかけや過程としても考えられるものです。不安を感じるときは自分の理想と現実のギャップが起こっているとき。それに気づくことができるから、それを埋めていくための準備ができるんです。
理想の自分と現実の自分がかけ離れている状態は、劣等感に苛まれ常に理想からマイナスされた現実の自分を見せつけられ、成長に繋がるはずの成功体験も意識できないという精神的にとても辛い状態。
「不安」とはその状態を知らせるためのサインであり、それを感じ取れるから、人間はそのギャップを一致させて自分自身になるための行動を起こすことができるということです。
変えられないもの、ネガティブなものとして抑圧したり無理やり肯定をしたりするのか。それとも理想と現実、自己概念と実際の体験を一致させ自分自身になるための過程として捉えただ素直に受け入れるのか。不安という感情とどう向き合うかによって、その後の行動が大きく変わってきます。
この理想や現実、自己概念と実際の体験のギャップという部分をもう少し詳しく見ていきます。
不安と「理想と現実のギャップ」の関係
心理学でよく使われるこちらの図を参照しながら考えていきます。
左の円(A)は自分を構成している言わば理想や自己概念の部分。右の円(C)はそれに対し実際に体験している出来事の部分です。そして真ん中の重なった部分(B)が、その自己概念にそった体験として意識化できている部分になります。
それぞれの円が重なる部分(B)が大きいほど、その人はしっかり自分を自分と受け入れられている人。不安や恐怖にも建設的に対応できる人ということになります。逆に重なる部分が小さいほど、理想と現実のギャップから不安を抑圧したり否認したり、正当化したりして不適切な対応に走りやすくなります。
自己概念と体験の不一致①
たとえば先ほどの「ドラマチックでストーリー性のある人生が良い人生」という自己概念を持っている人を例に考えてみます。まず左側の円(A)がこの自己概念にあたります。そして右側の円(C)にある実際の体験の中から、この自己概念に当てはまる体験だけが重なっている部分(B)として意識化されます。
それはたとえば仕事で大抜擢をされ賞賛された体験かもしれないし、ふと入ったお店で運命的な出会いをしたという体験かもしれません。どのような内容であれこうしたドラマチックな体験です。
このように円が重なっている部分では「ドラマチックな人生」と感じられる実際の体験だけが意識化され、右側の円にある他の体験は意識されることなく否認されます。
先ほどの例のような刺激的な出来事以外にも日々変化があり楽しいこともあるはずなのに、それが自分の自己概念から外れてしまうとそれがどんなに成長につながる貴重な体験であっても意識には上ってきません。
そうすると、この人が人生に意味を持てる部分はほんのわずか。毎日が刺激的でお祭りのような体験をし続けない限り、この人は延々と理想と現実のギャップに苦しむことになります。結果的に「仕事にやりがいを持てず同じ繰り返しと感じてしまう毎日を過ごしている」と感じられて、未来への不安が募っていきます。
自己概念と体験の不一致②
別のパターンとして、たとえば「人生はつまらないもので、周りは敵だらけで安心できない」。そんな自己概念を持っている人の場合はどうでしょうか。一般的には不適切と感じられても、この人はこれまでの人生でこの自己概念をつくりあげ、そこから「そうすれば他人と接触せず傷つくことなく生きていける」ということを学習しているのかもしれません。それは十分個人の自己概念や理想となり得ます。
その場合、左側の円(A)に「人生はつまらない、周りは敵だらけ」という自己概念が入ります。そして右側の円(C)の実際の体験の中で自己概念と一致するものだけが真ん中の重なった部分(B)として意識化されます。たとえば、「繰り返しで平坦な毎日」という体験や「仕事のミスによって人格を否定された」などの体験です。
そうすると、意識的には嫌な思いをするかもしれないですが、潜在的な部分では不安になるどころか安心するようになります。「やっぱり人生はつまらないし周りは敵だらけなんだ、自分の考えは間違っていないんだ」という風に。なのでこの人の場合は、逆に人生が刺激的になったり周りの人が急に優しくなったりする方が不安を覚えるでしょう。
それもやはり自己概念と実際の体験の不一致からくるもの。それぞれが重なっていればいるほど、不安は軽減されるようになります。
不安を受け入れられる状態
真ん中で重なっている以外の部分、左の自己概念の部分(A)は必要以上に理想化せず、自己概念と一致しないため意識化が許されない右側の実際の体験部分(C)もしっかり意識できる。これが自分を自分と受け入れられている自己の一致、現在の環境にしっかり適応し未来への不安も対人関係の不安も乗り越える活力が持てる状態です。
それはつまり、不安を「理想と現実のギャップを知らせるサイン」そして「自分自身になるための過程」と捉え素直に受け入れられる状態ということです。
それでは、最後にそんな状態を目指すためにはどうすればいいのか。冒頭でお伝えした「不安が起こるメカニズム」の詳細を見ながら考えていきます。
不安を感じたときの対処法
自己概念や自己理想、それに対する実際の体験を一致させ真ん中の重なっている部分(B)を増やしていく。そのためには理想化されたままの左側の部分(A)と、否認され続けている右側の部分(C)をしっかり現実のものと認識して受け入れていく必要があります。
あまり理想や自分の主義にこだわりすぎていないか、実際の体験の中にもっと目を向けるべき小さな成功や嬉しい出来事があるのではないか、そういったことを柔軟に自覚していく必要があるということです。
その第一歩として必要なのは、”今の自分の状態を知る”ということ。不安を感じることで今自分の身体にはどんなことが起こっているのか、そしてそれは精神にどんな影響を及ぼしているのか。それらを理解することです。
それは状態を知って安心するためだけに行ったり、ましてや正当化や「だから自分は何もしなくていい」という言い訳のために行うものではなく、心を落ち着かせて視野を広げ、自分自身の全体を見るための準備として行うというイメージです。
それでは不安を感じるときのメカニズムと精神に影響を与える過程などを見ていきます。
不安を感じるときの身体のメカニズム
1、ストレッサーとなる出来事が起こり、脳の中の海馬で過去の記憶と現在の出来事が照合される
2、過去の記憶と一致するものがあるか、まったく新しい出来事がなのかという処理がされる
3、その情報は脳の扁桃体に送られ、その情報に対して快/不快などの判断・意味づけがされる
4、不快と判断された場合、脳の視床下部から交感神経を活性化させる神経伝達物質が出される
5、交感神経の活性化と共に、筋肉の緊張、脈拍や血圧の上昇、発汗や動悸などが起こる
6,それに伴い落ち着きのなさやイライラなど不安のときに起こる精神的諸症状が起こる
こうした生理的な部分を理解することで、わからないことに対する恐怖の払拭や、人間として正常な反応であるという安心感も得られます。まずはこのようにしっかり今の自分の状態を知ることが第一歩です。
自己実現に向かうための過程と理解する
続いて、先ほどもお伝えしたように今感じている不安はネガティブなものでも自分を苦しめるものでもなく、自分が自分自身になるための過程であるということをしっかり自覚すること。
解決しようとする必要もなく、押し殺したり見て見ぬ振りをするのでもなく、ただひたすらに「今自分は不安を感じている」「この不安はこれから自分自身になるための過程である」ということを認め受け入れることです。必要なのはことはそれだけ。しっかり今の感情を理解しそれがプラスのものと自覚できると、必ずその後の適切な行動へとつながっていきます。
会社のプレゼンで不安を感じるなら自然に資料の精度を上げたり発言のまとめをするようになります。試験の合否が不安なら、勉強の仕方を工夫したりたとえ不合格でも納得できる状態をつくりあげていくようになります。好きな人へ告白しようとして断られるのが不安なら、うまくいってもフラれてもその事実にプラスの意味づけをしようと努力するようになります。
どんな場面であっても、「ただ不安を感じて動けずにいる」という状態で留まるということはなくなります。未来への不安、対人関係の不安、そういう漠然とした正体のわからない不安に怯えることもなくなります。
まずは自分の状態を知り、そして今感じている不安をどう捉えどう受け入れていくか。この部分と丁寧にしっかり向き合うことができれば、その後に生まれる感情がかわります。そして感情に従って生まれる行動も必ず変わります。
不安の真っただ中にいて辛いときは、どうか解決を急いだり先のことを考えたりなどせず、まずはひたすらに今の状態を知ること、そしてそれを認め受け入れることに専念してほしいと思います。
最後に
未来に対する不安、対人関係における不安。その他にも人生には気が遠くなるほどたくさんの不安がつきまとうもの。
そのとき、多くの人は不安を解消させるための考えを巡らせます。そしてそれがすぐにかなわないときには、現実から逃避したり気持ちを押し殺したりして、不適切な形で今の状況に適応しようとします。
不安を乗り越え自分の力にするためには準備が不可欠。具体的な準備ももちろん必要ですが、そのためにはまず今自分の身体や精神にはどんなことが起こっていてどんな状態にあるのかを知ること。それを知って心が落ち着いたら、今度はその不安をネガティブなものから自己実現に向かうための過程と捉えること。
そうして現状を受け入れしっかり今の状況が自覚できると、建設的な解決方法の考察や具体的な準備など、自然に前向きな方向へ感情や行動が動いていきます。不安を感じない人生などあり得ず、不安が生まれるからこそ自分が何者なのかを知るきっかけも生まれます。
これからの長い人生、不安というサインをしっかり受け取り自己理解や自己洞察が深まり、そしてそれが幸せな毎日へと繋がっていくことを願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。