こんにちは。
心理カウンセラーの幸跡です。
過去を振り返ることや過去に戻りたいと思うこと。きっと誰もが一度は経験があることですよね。あの頃は楽しかった、あの頃の自分は優秀だったなど思い出や回想にふけることも人生にはつきもの。
楽しみ程度でそのように過去を振り返るのならまだいいですが、精神的に落ち込んでしまい現実から逃げるために本気で過去に戻りたいと思ってしまう、また過去と今を必要以上に比較してどんどん気持ちが暗くなってしまう。そうなると少し危険かもしれません。
「過去に戻りたい」と考えることの本質、そのとき心の中ではどんな現象が起こっているのか。また過去に戻りたいと思うことはマイナスなことなのか。そして今だけのその場しのぎではなく、建設的に継続的に問題を解決するためにはどうすればよいのか。
過去に戻りたいというテーマに沿って、今回もじっくり考えていきたいと思います。今まさに「現実が辛い」「あの頃に戻りたい」と感じている方へ、この記事が少しでも役立てば幸いです。
目次
「過去に戻りたい」の本質
時間を巻き戻すことはできないとわかっていながら、本気で「過去に戻りたい」と考える。その考えにどっぷりと浸かってしまう。心が健康なときや冷静に物事を判断できるときには、もっと他に考えるべきことがあるのではないか、そんなことは時間の無駄なのではないかと思うかもしれません。
ただ過去に戻りたいと感じる欲求はとても強烈。経験がある方はわかると思いますが、その状況に陥ったときには他に考えることがあるとか時間の無駄などとは到底思えないものです。では、できないとわかっていながらどうしてこのようなことが起こるのでしょうか。
これは時間軸で考えてしまうとその本質は見えないと思います。このときの心理として、意識的には「過去に時間を巻き戻したい」と考えているかもしれません。でも、潜在的に感じていることはそうではありません。
「社会や家庭生活・人間関係などに適応できていた頃の自分に戻りたい」。これがこの現象の本質なのではないかと思います。自分を自分と受け入れられていて、他人を敵と感じず、自分の中の理想と現在の体験をしっかり一致して考えられていたあの頃に戻りたい。それは言い換えれば、「現在の状況に適応したい」という潜在的なプラスの意思が生み出しているものです。
過去にタイムスリップしてあの頃と同じ生活を送りたいのではなくて、不自由さや葛藤、不適応さを感じ、統合性が欠けて自分が自分ではないように感じたり人生の意味がわからなくなってしまっている現在の状況に適応したいがために感じている欲求ということです。
過去を振り返るのはプラスの思考
社会に適応できていたあの頃を振り返ったり戻りたいと考えるのは、不適応となっている辛い現実に適応しようとする自然な反応であり、自分を守るための誰にでもある防衛機制でもあります。
ただそのための方法として、「現在から逃避する」という方法を選択しているだけなんです。美しかった過去に戻り辛い現実との直面を避けることで、なんとか自分の尊厳や価値・人生の意味などを守ろうとしているということです。
過去を振り返る目的
人生はもっと楽しいはず、世界はもっと居心地がいいはず、そして自分にはもっと価値があるはず。そのような理想や自己概念がどんどん真逆の現実によって実際の体験とズレていってしまう。
そのズレをどのように埋めていけばいいか、どうすればこの劣等感を補償できるのか。そう、”楽しかった過去に注目”すればいいんです。すべてがうまくいっていたように感じる過去に注目しその頃に戻りたいと思うことで、もっと自分の人生にプラスでポジティブな意味を見出すことができます。
「できないとわかっていながら」過去に戻りたいと思うのではなく、「できないとわかっているから」過去に戻るという幻想に逃避できるんです。
道徳的・社会的にその方法が適切かどうかということは置いておいて、それは間違いなく自分を守るためのひとつの反応であり、自分にとって必要なことだからそうしているということをまずは否認せずしっかり受け入れる必要があると思います。それは必ず現状に適応するための足がかりになります。
逆にそれができないと、社会からの要求や圧力、これまでの教育や常識、文化など一般的に「正しいこと」として認められている悪によってどんどん追い詰められてしまいます。社会的な不適切と個人的な不適切は必ずしも一致しません。
マイナスからからプラスへ向かう可能性
ここで少し話がそれるかもしれませんが、人は“人間の可能性”を信じられないとどうなるでしょうか。本編と関係があることなので少し考えてみます。
他人を傷つけてはいけない、ルールを守らないといけない、学校に行かなくてはならないし仕事をしなくてはならない。そんなことは大前提として誰でもわかっています。
人間は弱い生き物という生物的な側面、精神があり自我を持つという心理的な側面、また人は人の中で生きるという社会的な側面。色々な側面からも、健康な人であればこれまでの教育によって普段意識する必要がないくらいわかりきっていることです。だからこそここまで世界や社会は存続を続けているし今こうして人間も生き続けています。
では本能的にわかっているのに、「他人を傷つけてはいけない」「ルールを守らないといけない」「学校に行かなくてはならないし仕事をしなくてはならない」と言われ続けるとどうなるか。
自分の理想と現実をなんとか一致させるために、劣等感を埋めるために、自分を守るための不適切な行動に走るようになります。反抗期の子どもや不正を犯す大人のように。
プラスへ向かうための選択肢
これはすべて、悪いことがしたくてしているわけでも自分を不幸にするためにしていることでもありません。ただ自分を守りなんとかこの社会に適応するために選択されたその人なりのプラスの行動なんです。
今回のテーマとしている過去を振り返ったり戻りたいと思うこともそう。良い悪い、正しい間違っているなどで判断されるべきものではなく、現状に適応するために選ばれたひとつの手段です。
人間は深いところにある自分の感情や思考を勝手な判断や解釈などをせずただそのまま理解し受け入れられると、必ず今の状況よりプラスの方向へ感情が動き行動につながっていきます。これは、これまでの行われてきた膨大な心理学的な実験やカウンセリングの結果からも実証されていることです。
ただこの可能性を疑ってしまうと、現状を受け入れる前に万人に向けられた一般論や常識の中に正解を探してそこから偏った認知が生まれ、それと大きく異なる自分の現状をまったく受け入れられなくなります。それが深刻になると心身の疾患へと発展していってしまいます。
人間には自然と今より良い状態へ、マイナスからプラスへと動き出す力がある。そのためには現状をそのまま見ること、常識やこれまでの経験などから勝手な意味づけをせずただただ今の気持ちや思考を受け入れること。こうした人間の可能性を信じることが、今回の「過去に戻りたい=現在の状況に適応したい」という状況の活路を開いていくと思います。
建設的な問題解決方法
過去に戻りたいと思うということは、潜在的には現在の状況に適応したいと感じているということ。そして現在の状況に適応するためには、自然とマイナスからプラスへ向かう人間の可能性を信じる必要がある。そのためには、今の感情や思考など自分の現状を勝手に判断・解釈・肯定・否定などの意味づけをせずそのまま見て受け入れる必要がある。ではそのようにただ受け入れていくためにはどうすばいいのか。
この自分の感情や思考と向き合いそのままそれを受け入れるという作業は、日常的なものではなくただ頭の中で知性的・論理的に考えることでもありません。理性で考えられる部分は、やはり一般常識やいわゆる「みんなが良いと言っていること」が土台となっておりその範疇で考えられるところからは自分だけの答えを見つけることはできません。
ただ意識するだけでは気づけないようなもっと深い部分、無意識・スキーマ・ライフスタイル・自己概念、呼び方は様々ですがそうした気づいたら形成されている人格の元の部分と向き合う必要があります。そのための方法としておすすめしたいのがフォーカシングという技法です。
本来の自分の力を引き出す
このフォーカシングは、自己との対話ができる方法、また自分でできる人格補正や心理療法としてもとても知名度が高く効果が期待できるものです。本当はどう考えていてどう行動したいのかを、自分自身から教えてもらうことができます。
ただ手応えを得られるまでには少し練習が必要で、それぞれの過程の目的や心理的に何が起こっているのかなどをしっかり理解することで十分な効果が得られるものになるので、詳しくはこちらの記事を参照してもらえたらと思います。
しっかり自分の感情に向き合うこと、そして本当はどう考えどう行動したいと思っているのかを知りそれを受け入れること、そしてその後は自分が自然にプラスの方向に向かうという可能性を信じること。言ってしまえば、これがそのまま今回のテーマの解決策にもなります。
本やネット上にある対症療法、他人からの指示やアドバイスや禁止。そういったものではなく、もともと自分の中にある未来に向かう力を引き出すために、自分自身を知りフォーカシングによって得られる感情の動きやその体験過程、その気づきをしっかり受け取る。
そして現在の状況に適応できる自分になっている頃には、必要以上に過去を振り返ったり戻りたいと思う気持ちも軽減していると思います。
今回の記事やフォーカシングの記事が参考になったら嬉しいです。
【補足】
中には環境そのものを変えないと改善が難しい状況にいる人、フォーカシングによって気づきを得ても、治安や文化、周りの風潮によってそれが活かせる状態ではないという人もいると思います。そういった人には、今回の方法はおすすめできません。
※自己洞察から現状を深く理解するようになるため、逆効果になる可能性もあります。
最後に
過去を振り返ったり過去に戻りたいと思うこと。これは現状に適応しようとして自分を守るために行われる一般的なこと。未完全で精神的に成熟しきっていない人類に起こる自然な反応です。
ただその現状を受け入れられなかったり、それに対し自分はどう考えどう行動したいと感じているのかを知らないまま一般論を頼りに知性的に考えてしまうことで、本来見なくてもよいはずのネガティブな部分ばかりが見えてきてしまいます。
まずは今自分が感じている「過去に戻りたい」という気持ちを肯定も否定もせずにただそのまま受け入れて、フォーカシングでそれに対して何がそう思わせるのか、本当はどうしたいのかなどをしっかり自己探求する。
対症療法でその都度問題解決を繰り返すのではなく、自己洞察や人間としての成長によって問題を問題と感じない強さを身につける。時間はかかるかもしれませんが、その繰り返しが自分だけの対処法となり、それが今後も持続する自分だけのメンタルケアになると思います。
自分で自分の強さをしっかり引き出し健康に豊かに生きる。そんな毎日を応援しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。